【事故物件】の解説
少し前のことですが、タレントの「いとうまい子さん」が、自宅マンションで突然死したお兄さんの件で、不動産会社から嫌がらせを受けたとブログで打ち明け、話題になりましたね。
いとうさんの話では、お兄さんは「自殺」や「他殺」ではなく、自宅で寝たまま亡くなっていたに過ぎません。それにもかかわらず、不動産会社から、「1日でも早く撤去しろ!」「死人が出たマンションは貸せない!」「フローリングを張り替えるから費用を払え!」など、身内が死亡した人に対して配慮が足りないようなことを言われたそうです。
自殺や殺人事件ではなく、寝たまま突然死した場合でも、特別な支払いなどの対応が必要になるのでしょうか? 今回はいわゆる【事故物件】について考えてみたいと思います。
今回のケースで問題となるのは、第1に、本件の「突然死」の原因が何なのか明らかではありませんが、仮に「自然死」だとして、自然死の場合に「事故物件」として「心理的瑕疵」があると言えるのか、が問題になります。「瑕疵」というのは少し難しい言葉かもしれませんが、要するに「キズ」のことです。心理的瑕疵というのは、気持ちの上で「いやだなぁ」と不愉快・不安などを生ずるキズということですね。
そして、第2に、仮に「事故物件」に該当する場合、死亡することにより物件の価値を減少させた本人(お兄さん)ではない者(いとうまいこさん)が責任を負うのか、が問題になります。
第1の点について考えましょう。
「自然死」のケースとは異なり「自殺」のケースの場合は賃借人側に損害賠償責任が発生します。「東京地裁平成22年9月2日判決」は、「賃借人の善管注意義務には、居住者が当該物件内部において自殺しないように配慮することもその内容に含まれる。」として、賃借人の損害賠償責任を肯定しています。「善管注意義務」というのは「善良なる管理者の注意義務」ということを略した言葉ですが、要するに、普通に(一般人に)要求される常識的な注意義務ということです。一般論として、この善管注意義務を欠くと「過失あり」とされることになります。
話を戻して、確かに、一般人にとって「自殺」は身近なことではなく、避けたいことですので、心理的瑕疵の程度が大きいでしょう。なお、「殺人」の場合は心理的瑕疵の程度が更に飛躍的に大きくなるものと考えられます。
では、「自然死」のケースはどうでしょうか?
「東京地裁平成19年3月9日判決」を見てみましょう。この訴訟は「賃借人の従業員が建物(借上げ社宅)内で脳溢血により死亡し、死亡後4日経って発見された。賃貸人は、建物の価値が下落したとして、賃借人に対し、約580万円の損害賠償請求をした。」という事案です。
東京地裁は「借家であっても、人間の生活の本拠である以上、老衰や病気等による自然死は当然に予想されるところであり、借家での自然死につき、当然に賃借人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできない。そして、死亡4日後の発見が賃借人の債務不履行であるとは認められないことから、賃貸人の請求を棄却する。」として賃借人の責任を否定しました。
病死などの「自然死」は誰にでも訪れる可能性の高いことであり、法律上の損害賠償責任の発生根拠として認めることは妥当でないものと思われます。
但し、次の点に注意しましょう。「自然死」の場合には、原則として、心理的瑕疵に該当せず、損害賠償責任が発生することが無いとしても、例外的に、死亡時点から相当期間が経過して腐乱死体になっていたような場合には、損害賠償責任が発生することがあるとされています。
確かに、死亡して腐乱すれば、臭いもきつくなり、建物内部に腐乱の痕跡が残りますから、心理的瑕疵に該当するものとして、損害を(内装の全面的交換や消毒・消臭のための費用なども含めて)賠償させるべきでしょう。
そして、腐乱した死体が発見されて、警察が出動するなどして近所に知れ渡った場合には、その家に引っ越した時から、近所から特別な目で見られるでしょうから、「そんなところには引っ越したくない!」と不愉快・不安になるのは当然ですね。やはり、このような場合も心理的瑕疵ありとして「事故物件」扱いになるでしょう。
次に、第2の問題点について考えてみましょう。
上記のとおり、自然死の場合は、原則的には損害を賠償する必要はありませんが、例外的に賠償責任が発生する場合、その死亡した本人ではない親族が賠償責任を負うのか、考えてみましょう。
親族が賃貸借契約の保証人になっていれば責任を負うことは明らかですが、保証人になっていなくても、本人の「相続人」は責任を負うものと考えられます。理論的には、死亡時に損害賠償責任が発生し、その死亡と同時に相続されると考えられます。仮に、本人に財産が無いようであれば、相続放棄の手続をしましょう。死亡した本人の最後の住所地の家庭裁判所で手続をすることになります。手続きは、相続の開始を知った時から「3か月」です。アッいう間に過ぎてしまいますので、忘れずに手続するようにしましょう。
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