「事故物件ロンダリング」の解説
1 はじめに
今回は「事故物件ロンダリング」のお話をします。これは「ルーム・ロンダリング」とも言われることがあります。
「ロンダリング」とは「洗浄」のことで、クリーニング屋さんのことを「ランドリー」と言いますが、この「ランドリー」と「ロンダリング」は同じ意味を示す言葉です。
なお、「事故物件」については、前回のブログ記事で解説しましたので、そちらをご覧下さい。
2 事故物件ロンダリングとは?
事故物件とは、自殺、他殺、不審死など忌み嫌われる事件・事故があった物件のことですが、今回のテーマである「事故物件ロンダリング」とは、事故物件をクリーニング(洗浄)して、嫌われない物件に変えてしまおうという行動のことを指します。
3 事故物件ロンダリングが行われる理由
なぜ、事故物件ロンダリングが行われるのか、その動機を考えてみましょう。
まず考えられる点は、事故物件に住むことには抵抗を感じる人が多いので、借り手を探すのが困難になるという点があります。
事故物件の部屋の入居者が見つからないだけでなく、その部屋のまわりの部屋の住民も退去する可能性がありますね。入居率の低下は避けられません。
また、入居率が低下すると、収入(利回り)が低下し、借入金がある場合には、将来的に返済が行き詰まるおそれがあります。
その結果、仮に、ローン負担に耐えられなくなって、物件を売却しようと考えても、事故物件を買う人は少ないので、買主を見つけることは非常に困難になるでしょう。正に「踏んだり、蹴ったり」の状態に陥りますね。
4 事故物件ロンダリングの方法
一番多く行われる方法は「サクラを入居させる」という方法です。
不動産業者の中には「事故が起きた後、一度でも次の入居者が入居すれば、そのまた次の入居者に対して、事故物件であることを説明しなくても、宅建業法上の重要事項説明義務に違反しない。」と考えている業者がいるようです。
そこで、このような不動産業者は、自社の社員やアルバイト学生などを使って一定期間だけ事故物件に入居させて、クリーニングしようとするわけです。
あるいは、借地借家法の「定期借家契約」も事故物件をクリーニングする方法として利用されることがあります。
事故物件であることを説明したうえで借主を募集した場合、低家賃でなければ借主はほとんど現れません。低家賃の借主を普通借家契約で入居させたのでは、大きな損失が生ずる恐れがあります。
そこで、低家賃の借主を定期借家契約で募集し、1年程度で退去してもらい、その後は相場通りの家賃で普通借家契約を締結するわけです。
その他には、定期借家契約と似たような方法で、マンスリー契約やウィークリー契約で貸し出してクリーニングした上で、普通借家契約に戻す方法も行われているようです。
今後、いま話題の「民泊」も事故物件ロンダリングの手法として利用されるかもしれませんね。
5 事故物件ロンダリングに対する法的規制
宅地建物取引業法(宅建業法)の規定によって、不動産業者は、物件についての説明義務を課されています。これを「重要事項説明義務」と言います。
買主・借主は、当該物件において人が異常死したという事実について大いに気になるものです。このような人の気持ちに影響を与えるマイナスの要素を「心理的瑕疵」と言います。この心理的瑕疵についても、重要事項説明書で説明すべきであるとされています。
仮に、不動産業者がこの説明義務に違反して、事故物件であることを説明せずに業務を行った場合、宅建業法違反となり、免許停止や、悪質であれば宅建業法上の罰則を科されることにもなりかねません。
また、説明義務違反が重大である場合、例えば、事故の内容(自殺なのか、他殺なのか。他殺の場合、被害者の人数は、殺害方法は残忍なものか、など)、物件の規模、用途、金額などによっては、単に宅建業法違反という行政法規違反に問われるだけでなく、刑事法規(刑法上の詐欺罪〔不作為による欺罔行為〕など)にも問われる可能性がありそうです。
6 事故物件ロンダリングを見抜く方法
買主・借主の立場では、事故物件ロンダリングを見抜く方法はあるのか、がポイントですね。
なかなか難しい問題ですが、いくつか考えてみましょう。
(1) 事故物件を集めて表示してくれているWEBサイトがありますので、利用して検索してみ ると良いでしょう。
その他、自分で気を付ける点として、次に点が考えられます。
(2) 不動産を買うときは、必ず現地を見て、確認しましょう。その際に、リフォームの跡に注意しましょう。マンションなどの集合住宅で、1室だけがリフォームされていたら、怪しいですね。この場合、考えられるのは、その1室で過去に火事があった場合、強盗などが押し入って逃げ惑う家人数人を殺害し、あちらこちらの部屋に血が飛び散って、室内全体のクロスを張り替えざるを得なくなった場合などがあり得ます。
また、逆に、1室の中で、特定の場所(寝室、風呂場など)だけがリフォームされている場合には、その場所が殺人現場だった可能性がありますので、要注意です。
いずれにしても、要するに、他の居室と違うリフォームの状態である場合には、十分注意して、家主、業者、周りの住民などに、遠慮せずに質問してみましょう。
(3) また、館名(マンション名)などを変えた建物も要注意です。事故が起きたマンションなどの悪いイメージを払拭するために、館名を変更することもあり得ます。館名を変えれば、ネット上の検索にかからなくなることもあり得ますね。
館名の変更と共に、外壁を明るい色に塗り替えれば、悪いイメージを一掃することができると考えるかもしれません。
(4) 幹線道路などの大きな道路沿いの階数の多いマンションなどは注意が必要です。このようなマンションでは、単純に居住者が多いですから事故の発生確率が高いものと思われますし、また、高い建物であれば飛び降りた時の成功率(死亡可能性)が高くなります。
なお、住民が多いことによる発生確率の増大という点で言えば、都市部の方が事故物件は多いはずです。住宅が多い地区、例えば、東京の中野区や杉並区などは比較的多いような印象があります。
7 事故物件を契約したら、どうしたらよいのか?
事故物件だと知った上で契約したら、後になって、やはりイヤだと言ってもダメですね。不動産業者がキチンと説明してくれた時に、勇気を出して断らなければいけません。
では、不動産業者が説明しなかった場合はどうでしょうか?
この場合、不動産業者がウソを言う(不実の告知)などしていた場合には、契約から6か月間は契約を取り消すことが可能です。これは「消費者契約法」という法律に基づくものです。認められる場合が限られていますが、該当する場合には強力な効果を発揮する法律です。
消費者契約法が使えない場合でも、民法上の錯誤規定(95条)や詐欺規定(96条)を検討してみましょう。契約の解消、損害賠償の請求など専門的な分野になりますので、弁護士などの専門家に相談してみましょう。
その他、不動産業者を監督している官庁(国交省や各都道府県の不動産業指導課など)、消費者センターなどに相談してみるのも効果があります。
いずれにしても、住居というのは生活の本拠であり、毎日生活する場所ですので、消費者の方は、イヤなことがあったら我慢せずに、解決のために努力しましょう。
逆に、不動産業者の人は、借主の生活に、そして身体的・心理的な健康に大きな影響を及ぼす仕事をしているのだということを自覚して、消費者の信頼を得るように頑張ってください。
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